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市田文子経歴
1992-1995 パリ工芸美術製本専門学校(U.C.A.D.)で製本を、ヴェジネ市立製本学校(A.A.A.V.)で製本と書籍修復を学ぶ。
帰国後、2000年に兵庫県芦屋市でルリユール工房「アトリエ・アルド(atelier ALDE)」を開き、ルリユールの注文制作の他、ワークショップ、製本教室を開催している。
もう二十年ほど前の事になるが、パリの製本学校の入学申し込みをした時、私がルリユールについて知っていた事とといえば、「本をかがり直して革で表紙をくるむ製本」というような漠然としたものであり、ルリユールについてのイメージも知識もほとんどなかったように思う。
ネットもない時代であったという事もあるがフランス語も堪能という訳では全然なく、そういうわけで単に読書好きというだけでいきなりフランス製本と接することになった。
この文化的な衝撃は大きかった。
「革の本」への憧れのようなものはもちろんあったが、それにも増して実際に習い始めて魅了された事の一つに「仮綴じの本」を分解してかがり直すという工程がある。
その工程の間、製本する主体(私)は、本自体の持つ手触りと、本の姿に直に接することになる。そして、かがっている間中、本文紙に使われたオランダ紙やアルシュ紙のふっくらと柔らかな感触と十分な余白を持った活版印刷で刷られたテキストに挟み込まれた版画を楽しむ事ができる。
つまり、本自体がルリユールされるために作られたといえる本の文化がそこにはあった。
そうして私は、ほぼいきあたりばったりにルリユールに嵌ったのだった。